反原発カルチュラル・スタディーズ

donburaco2011-05-22



放射能標識(トレフォイル)について。まず、3つの葉はアルファ線ベータ線ガンマ線を意味しているのだそうだ。国際標識として色彩は黄地に黒マークと規定されている。



Sting and The Radioactive, Nuclear Waste (1995)
ポリス結成以前、無名時代のスティングによる1970年代の音源をアップデートしたCDで90年代にリリースされた。ジャケは放射能マークの黄色と黒を反転した意匠で、円形缶ケース入りの限定盤(筆者の手元にはない)は奇しくも形状的に昔のテープレコーダーのリールのデザインも思わせたりもする。


放射性標識は1946年カリフォルニア大学バークレー放射線研究所でつくられた。 当初は青地にマゼンタで描かれていたという。


これはクラフトワークの1975年のアルバム「放射能」のカバー・アート。

ラジオの図像が用いられているのはradio-activityの間にハイフンが入っていることから「ラジオの宣伝活動」を指すためで、ナチス時代の国民ラジオDKE38型の写真が用いられている。


放射能」は2010年のリマスター盤発売を機にジャケット・デザインが変更された。ラジオから放射能のイメージに。


ちなみに、これは反原発のアイコンとして有名な「スマイリング・サン」。歴史をたどると奇しくもクラフトワークのアルバムと同じ1975年につくられたものらしい。
クラフトワークの新ジャケのトレフォイル・マークは放射能標識(黄地に黒)ではなく、スマイリング・サンの色調(黄地に赤)を模したものであることに注目してもらいたい。クラフトワークのジャケ更新については「iTunes時代のアイコン表示用に小さなサイズでもすぐにそれとわかるリデザイン」だと以前『クロスビート』のコラムでも記したが、今作に関してはもうひとつ、初期クラフトワークが掲げたテクノロジー礼賛=親原子力的なイメージ(無論、風刺的なアイロニーであったとはいえ、メディアに対して彼らはその姿勢を崩さなかった)をカラーリングによっていつのまにか反原発脱原発のイメージに切り替えていたといえる。さすが、ラルフ・ヒュッター、したたかすぎる。



これはジャケット・アートワークではないが、去る4月に高円寺で行われた「4.10原発やめろデモ!!!!!!!!!」のためにイルコモンズが制作したポスター。
かつてロックが掲げた「反戦・平和」が大きな戦争の終焉=テロとの戦いという日常──それはサブカルチャーにおいては早くから「平坦な戦場」(by 岡崎京子)といった茫漠なイメージとともに暗に予感されていたのだが──において熱やリアリティーを喪失したいま、「反原発脱原発」は(かつての1980年代初頭のブームとは違ったかたちで)2000年代以降のエコロジーやスロー・ライフなどの自然回帰的な動向とともに、20世紀的な「反戦・平和」や「ラヴ&ピース」に代わる21世紀的な大衆文化や消費生活の旗印として機能する可能性がある。

あるいは1990年代初頭に台頭したエイズへの理解や支援を促す運動のための新しいプロパガンダ・アートやデザインを総称した「エイズ・デモグラフィクス」(by ダグラス・クリンプ)にも匹敵する「反原発脱原発モグラフィクス」とでもいうべき動向も形成されうるのではないか。イルコモンズのグラフィックや映像作品にはそのことの自覚と自負が感じられる。


エイズ・デモグラフィクス」の代表格であるアクト・アップによる「沈黙=死」プロジェクトのポスター(1986)


原発問題をテーマとしたロックとそのグラフィックについては『クロスビート』2011年7月号(p.154、連載「アートワーカホリックアノニマス」)に書いているのでぜひ読んでもらいたい。記事にも使用した図版の一部に新たなコメントを加えて以上記してみた。


Viza, Made in Chernobyl (2010)
最後に紙幅の都合で雑誌には記さなかったが、昨年リリースされていたこのCDが僕は気になっていた。その名も「メイド・イン・チェルノブイリ」。今年2011年はチェルノブイリ原発事故から25周年。システム・オブ・ア・ダウンサージ・タンキアンとのコラボ曲も収録。システム・オブ・ア・ダウンのデビュー・アルバムがジョン・ハートフィールドの引用だったことは前にも触れた。100年前のプロパガンダと現代のデモ・グラフィクスを文化史的に接続することでその先延長線上に浮かび上がってくるものを考えたい。