小池俊起写真展「escape from the past」展



「写真」の圏外

 日差しの傾きかけた午後、小池俊起は多摩丘陵の道端にスクーターを停め、機材をもって林の中に入る。林道では人に会うこともなく、山とも丘とも呼べない起伏の途中で、遠望する町並や草木にうつる光と陰をフィルムに記録する。日が暮れる前に降りてくると、再びスクーターに乗って国道沿いのラーメン屋に立ち寄り、カウンターに出された大盛り味噌チャーシューを前にひとり小さく笑っている(はずだ)。
 木々の枝や茂みと陽光がつくるコントラストは、小池がシャッターを切らなければ、ただそれだけのものとして人目につかない場所にあり、やがて枯れたり折れたりしてなくなってしまうだろう。彼の写真は自然に相対してはいるが、そこにはランドスケープ・フォトやネイチャー・フォトの絶景も神秘もない。日常生活圏のすぐ傍にある意識や常識の圏外で、小池は意識や常識では把握できない何かと交信しようとしているのではないか。それは、たとえば1億5千万キロメートル先で輝く大きな天体であったり、彼が敬愛するこの世に居ない写真家であったり、あるいは彼が本業とするグラフィックデザインとは何かという問題のように思われる。小池の写真はその交信記録として解析を待っている。

楠見清(美術編集者/評論家、首都大学東京准教授)

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 2年ほど前から写真作品を見せてもらっている縁で初個展のDMに文章を寄せました。編集学を専攻し、エディトリアル/ブック・デザインの研究、グラフィック・デザインの制作をしながら写真を撮り続けている大学4年生ですが、期待の新人としてここに紹介します。会場は、大野伸彦+瀬戸正人+中居裕恭森山大道らによって運営され「夜の写真学校」でも知られる写真の実験場〈Place M〉の2階にあるフォトギャラリーです。

◎小池俊起写真展「escape from the past」
2012年12月3日─9日
会場=M2 gallery 東京都新宿区新宿1-2-11 近代ビル2F ギャラリーホームページ 地図