「KRAZY!」展に投げかけてみたこと


共同キュレーターとして参加した企画展「KRAZY!:アニメ+コミックス+ゲーム+アートの熱狂的世界」が、バンクーバー美術館(Vancouver Art Gallery)で始まっています。先日カタログがようやく届いて今その全体像をようやく知りえたところ(ちなみにカタログはまだAmazonでは買えない様子。洋書店への入荷状況等も発見したらまた記すことにします)。

ウェブで検索してみたら『バンクーバー経済新聞』にさっそく記事になっているのを見つけました。
『バンクーバー経済新聞』5.26付


この展覧会は、20世紀以降の北米のコミックス、ヨーロッパのグラフィック・ノベル、日本のマンガ、アニメ、そしてTVゲームやそれらをテーマにした現代の芸術表現を、国境や言語を越えた国際的な視野で取り上げたもので、北米からは名作『マウス』で知られるアート・スピーゲルマングラフィックノベル部門を、ドリーム・ワークスのアニメーション監督ティム・ジョンソンが動画カートゥーン部門を、「シム・シティ」のウィル・ライトがゲーム部門を担当するというそうそうたるメンバーだが、日本からはカルチュラル・スタディーズの研究者でアニメに詳しい上野俊哉さんと僕が参加し、作品の選出とカタログ解説執筆をしている。
加えてアメリカのポップ・アートと日本のネオ・ポップを中心とした現代美術への接続は、本展ディレクターであるバンクーバー美術館のブルース・グランヴィルがキュレーションしている。個人的には僕の興味も当然そこにある。


10年も前のことになるが美術手帖別冊『MT:マンガテクニック』の編集と『コミッカーズ』の創刊を手がけた経緯から、今回僕は日本のマンガとアートとの接続をテーマに、大友克洋江口寿史今敏松本大洋安野モヨコ湯浅政明、岡崎能士、横山裕一水野純子小田島等新海誠ら15名(いずれも敬称略)を上野俊哉と共同で選出した。1980年代のニューウェイブと呼ばれた動向から現在までを一連の流れとして捉えると同時に、それらに共通する文化的遺伝子を60年代の日本のアングラ(たとえば寺山修司)、サイエンスフィクション(たとえば筒井康隆)、そして実験芸術(たとえばハイレッドセンター)といった諸表現の中に見出すことをコンセプトとしている。通常のマンガ史の文脈とは異なる文化史の隙間から個々の作品を浮き彫りにするサーチライトを照射してみたいと考えたわけだ。


そのコンセプトはカタログ(英文)の作家解説のなかにも部分的に反映されているが、諸般の事情で執筆しながらも未掲載の断章もある。だから今回この展覧会を前に上野さんとディスカッションしたり考えたりしたことについては、いずれ別の機会を見つけて僕なりにまとめ直して公開したいと考えている。


奇しくも、マンガ雑誌の相次ぐ休刊がいよいよ大手出版社の少女誌から青年誌にまで飛び火する昨今、20世紀のマンガ史をより広範囲かつジャンル横断的な《雑誌文化》を豊潤に充満させた重要なファクターとして、あらためて再認識する必要を強く感じている。「KRAZY!」展に投げかけたことが、地理的移動と時間的経過の後、いかなるバウンド・ボールで返ってくるか、今度はその捕球を試みたいと思う。

バンクーバー美術館オフィシャルサイト