シンポジウム『20世紀末・日本の美術ーそれぞれの作家の視点から』にゲスト出演します

現代美術家の中村ケンゴさん企画の面白そうなシンポジウムに登壇することになりました。90年代(とくに前半=インターネット環境以前)のことって確かに今振り返ろうとしても情報がものすごく少ない。
僕自身の出版編集文化史的な関心でいうと、1990年代前半はMacの価格が下がったことで若者にDTP技術が普及しインディーズ・マガジンの花が開いた時代で、それが2000年以降のZINEのムーヴメントにつながっているはずなのだが、当時の優れた作品はすべて紙媒体やフロッピー・マガジンやCD-ROMマガジンなどのスタンドアローンなパッケージだったため、現在インターネット上を検索しても何の情報も残されていないことに愕然とした覚えがある(具体的にはたとえば当時若手クリエーターの間でひじょうに盛り上がったデジタローグ・ギャラリー主催のインディーズ・フロッピーマガジン展示即売会「フロッケ」について検索をかけてみると、そのあまりにも少ない検索結果数に当時を知る者なら本当に言葉を失うだろう──あのムーヴメントはどうやらネット上では”なかったこと”になってしまっている。当時デジタローグの江並直美がやろうとしていたことのディジタル的側面はその後松本弦人によるBCCKSに、フィジカル的側面はZine's Mateなどに継承されているのだが、その流れや足取りがいまとなっては完全にかき消されてしまっている。
美術に関してもそういったことは同様で、今回の企画はその事実に対して90年代に20代を送った世代の美術家たちがオーラル・ヒストリーのライヴで補完するという試み。異なる意味でロスト・ジェネレーションと呼ばれた世代が”失われた年代”を取り戻す。
以下、中村ケンゴさんのHPからそのまま引用します。

1990年代後半以降、日本の美術は新たなイズムの台頭やそれに伴うスクールの誕生など、局所的なものはあっても大きな動きは起こっていないとされています。そのいっぽうで、グローバルな美術市場が浸透し、0年代以降には多くのコマーシャルギャラリーがオープンするとともに、たくさんの若い作家がデビューしました。しかしリーマンショック以降、再び市場は停滞し、美術館はもとよりコマーシャルギャラリーも淘汰の時代に入っています。また、昨年の東北の大震災と原発事故は、美術にとっても作家にとっても、自身の根本的なありかたの転換を迫るものとしても捉えられています。
そうした様々なことを踏まえて、このシンポジウムでは、1969年生まれ(永瀬、中村)、1970年生まれ(眞島)の三人の美術作家が、自分たちが活動を始めた90年代のアートシーンを振り返りながら、現在につながる表現の潮流や、アートマーケット、アーティスト・サバイバルについてなど、それぞれの体験を通して、今また新たな知見が得られないかを探ります。またインターネット普及前夜である当時の情報を得ることが難しいなか、若い世代に直近の過去の美術の状況を伝えるのも私たちの世代の責任ではないかと考えました。さらに三人の作家に加えて、80年代後半から0年代に渡って、『美術手帖』の編集者としてアートシーンに関わった楠見清氏をゲスト・コメンテーターとして迎え、メディアの視点からの考察も補いながら、より広い議論を展開できればと目論んでいます。

<シンポジウム・タイトル>
『20世紀末・日本の美術ーそれぞれの作家の視点から』
90年代に活動を開始した美術作家たちそれぞれの視点から、当時のアートシーンを振り返り、現在につなげるべく検証します。
<期日・会場>2012年2月24日(金)19:00~21:00 メグミオギタギャラリー[入場無料]。東京都中央区銀座2-16-12 B1 電話: 03-3248-3405 E-mail: info@megumiogita.com 地図: http://www.megumiogita.com/Information/
<パネリスト紹介>
眞島 竜男(まじま・たつお)現代美術作家。1970年生まれ。ロンドン大学ゴールドスミスカレッジ美術科卒業。写真、ビデオ、テキスト、パフォーマンスなど。TARO NASU で個展を開催中(2月25日まで)。
永瀬 恭一(ながせ・きょういち)画家。1969年生まれ。東京造形大学卒業。3月4日より HIGURE17-15cas にて第4回「組立」開催。
中村 ケンゴ(なかむら・けんご)/司会 美術家。1969年生まれ。多摩美術大学大学院日本画専攻修了。絵画を中心に制作。国内外の展覧会、アートフェアに出品。3月に BookGallery CAUTION の企画展に出品予定。
楠見 清(くすみ・きよし)/ゲスト・コメンテーター 美術編集者・評論家。1963年生まれ。美術雑誌編集の傍らアートストラテジスト=芸術戦略立案家として数多のペンネームで若手美術家を後方支援。現在首都大学東京准教授。

シンポジウム詳細=『20世紀末・日本の美術ーそれぞれの作家の視点から』