「神の手」をイマジンし、モトローラに捧げる

篠田太郎のSNSの日記でこの展覧会を知る。

韓国のナムジュン・パイク・アートセンターで今日から5月16日まで開催される企画展《The First Stop on the Super Highway》
篠田太郎は翼端に取り付けたジェット・エンジンでまわる直径8メートルの大きな回転翼状の作品《ゴッドハンド》を出品している。2002年に広島市現代美術館で開催された個展で発表され、僕は観に行かれなかったことをずっと悔やんでいた作品だ。

エンジンの作動に苦労していた様子だが、テスト中の映像が本人の手でYouTubeに上がった。動画の後半では取り付けたエンジンがいよいよ点火される様子が。エンディングには(エンジンは点火されていないが)ゆっくり回転する作品の全体像が見られる。

ちなみにこの作品はジェットエンジンと反対側の翼端(正確には「翼」ではないが)には赤色LEDがついていて、作品コンセプトとしては回転体が時速300キロメートルを超えると残像効果で帯状のカーテンが出現することを想定して制作されている。テーマは「美と恐怖」。鑑賞には恐怖が伴う。見ることは震えること?
広島では結局、諸事情があってエンジン点火の許可が下りなかったこの作品、韓国では時速300キロメートルの赤色光の帯は見られるのだろうか。まだエンジンのメンテナンスが必要な様子だが、つづきの映像が待ち遠しい。

ところで、篠田太郎がフルクサスの作家と並ぶというこの企画展の意外な取り合わせに僕は無性に興味が湧いてしまった。フルクサスはジョージ・マチューナスのグラフィックやさまざまなイヴェント・スコアのもつ印象から文明批判やダダ的要素で語られることが多いが、実際にはテクノロジーと人間との新しい関係性を模索する理系のアプローチも含まれていた。「前衛芸術」というと文系っぽいが、「実験芸術」というと理系っぽい──いまとなってはわかりにくいが、フルクサスにはその両方の要素があったはずなのだ。その意味でパイクの存在(そして、パイクとボイスを結んだもの)は重要だし、パイクの名を冠した美術館がこういう展覧会を企画していることに溜飲が下がる。

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この展覧会で日本からは他に古郷卓司(*candy factory)が韓国のウェブ・アーティスト、ヨンヘ・チャン・ヘヴィー・インダストリーズ(張英恵重工業)とコラボレーション出品している。
彼らの過去の共作を見てみよう。たとえばこれ、《HALBEATH FOR SALE》
操業中止で廃墟と化したモトローラの工場の映像にどこかフルクサスのパフォーマンス・スコアの十八番《エイドリアン・オリベッティに捧ぐ》にも通じるものを感じるのは、ともに情報通信テクノロジーへのオマージュだからだろうか。

古郷卓司と宮川敬一(Gallery SOAP)によるこちらの最近作も気になる。近代産業遺産と住宅団地のリサーチと文化史的考察、ウェブ上での情報公開のしかた等もろもろにシンパシーとジェラシー(惚れ惚れと見入りつつも、ヤラレターという心地よい嫉妬感)を感じる。

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さらに、日本からは小沢剛が中国のチェン・シャオシォンと韓国のギムホンソックの三人組ユニット「西京メン(Xijing Men)」として参加。篠田が潜在的に理系フルクサスの実験芸術の血筋を引いているとするなら、そういえば無国籍かつノマド的な小沢は文系フルクサスの前衛芸術の血統にある。1960年代生まれの彼らはいずれもフルクサスの直系であるはずもないのに、40歳代になった今、なぜかその系譜にあるように見えてくるのが面白い。いや、逆にいうなら、現在の彼らの姿を通して、かつてのフルクサスたちが何者だったのかがよく見えてくるような気がするのだ。