すごいぞ!ドライジーネ式自転車練習法

子どもの4歳の誕生日を機に自転車を買って、ペダルを外して補助輪も付けずに、足で地面をキックして乗らせるという練習方法に挑戦してみました。
結論から言いますと、練習3日目、時間にしたら計5時間くらいの練習で自転車に乗れてしまいました。しかもほとんど転ばずに!

自分でも驚くほどの効果があったので、この練習方法を「ドライジーネ式自転車練習法」と名づけて、そのドキュメントをBCCKSで本にして公開しています。自分で言うのもなんですが、なかなか面白いものに仕上がったのではないかと。まあ、見てみてください。

『すごいぞ!ドライジーネ式自転車練習法』Bcckを閲覧する
(閲覧ページにジャンプしたら右側のNEXTボタンをクリックしていくと順にページがめくれます)

   *  *  *
今回ぼくがこのBcckをまとめた動機は、個人的な体験をみんなで共有したいと思ったから。ネーミングにはちょっとした問題提起も込められている。──じつは世の中には転ばずに自然に乗れるもうひとつの自転車の練習方法がある。でも、その練習方法がイマイチ世間に広まらないのはそれを指す固有の名称がなかったからなのではないか──と。
そして、なにより「楽チンで楽しい乗り物」であるはずの自転車の練習が、子どもたちにとって痛みや苦痛をともなうものになってしまいかねない現実に対してオルタナティブなもうひとつの方法の提示が必要だと思ったからです。「自転車は転んで覚えるもの。たくさん転ばないと上達できない」というもっともらしい風説を打破するためには、それに代わるやさしい教習法をもっと具体的に記述して普及していく必要があると感じたわけです。


「ドライジーネ式自転車練習法」のドライジーネとは1817年にドイツのドライス伯爵が発明した自転車の始祖といわれる車両で、ペダルやチェーンがない二輪車ですね。自転車を習うには自転車の歴史に倣うべきだ、というのはおそらくは理にかなっている。

ちなみに今回ぼくは東京・竹橋の科学技術館自転車文化センター実車が展示されていることを知り、慌ててカメラ片手に取材に行ってきました。あらためて間近に見るドライジーネは一言で言うなら美しい乗り物でした。Bcckに使わなかったアウトテイクの写真で紹介しましょう。



これらのアングルだと背景の解説板のイラストと重なってペダルのない美しい姿が見にくいのがちょっと残念……。アウトテイクになった理由はそれです。


おまけ。話はドライジーネからそれますが、館内にはこんな展示物も……。

現代のフォールディング・バイク(とくに英国製のアレ)にもけっこうよく似た設計の折り畳み自転車が、半世紀前日本で生産され輸出されていたという。

しかもその原型ともいえる日本製の折り畳み自転車の元祖は、戦時中の陸軍落下傘部隊用に開発されていたものであるという事実。これにはちょっと驚き、心境複雑な思いに。写真は館内の展示モニターより。


『すごいぞ!ドラ式』自作解題
さて、話を『すごいぞ!ドライジーネ式自転車教習法』に戻しましょう。作者自ら自作解題をブログでしてしまうのもどうかと思いますが、アートについて書くのが仕事のはずのぼくが、なぜ今こういうものを書いてしまったかについて少し書いておきます。というのも、この本(Bcck)の背景にはじつはこれまでのぼくが読んできたもの・編んできたもの・書いてきたいろいろなものがあると思うからです。

今回のBcckにおけるぼくの関心は、自転車の発明史と子どもの自転車の練習が重なったところからスタートしています。これまでもヤノベケンジさんや八谷和彦さんの展覧会の作品解説として寄せた文章の多くが過去の発明史と現代の科学技術や近未来のコミュニケーションのかたちを接続したものであったのと同様に、ぼくにとってはこれもまた一種の交通=メディアとしての自転車についての文化論であると同時に、それを基にしたコミュニケーションについてのドキュメンテーションでもあるのです。
個人的にはこのハウトゥ本ともエッセイともつかない文体にはそれなりに工夫と愉しみがあります。テクニカルな手順をレシピのように箇条書きのテキストとして記述していく作業が面白いのは、昔愛読した『おそうざいのヒント』やサーフィンやバイクの本の影響ですね。あるいは、自分の作文作法としては、かつて編集した画材の技法書や、数年前短い間でしたが育児雑誌に連載していた子育てフォトエッセイの延長線上にあるものです。

BCCKSに関してはすでにこのブログでも紹介済みですが、インターネット上でだれでも無料でバーチャルな本の編集と出版ができるサイトですね。
今回、公開3日目にトップページに表示される総合ランキングで1位になったりもしてドキドキ感が味わえました。


この練習方法は自転車=文化の共有につながる
「ドライジーネ式自転車練習法」の実際については、このBcckのなかで詳述したのでここでは説明は繰り返しませんが、せっかくネーミングもできたことだから今後もっともっと普及させてみたらいいと思う(いっそ「ドラ式」と略して呼ばれたらいいのかも)。もちろん誰のネーミングというこだわりはなくコピーレフトの方向で。

そもそもこの自転車の練習方法そのものがいつどこの発祥で誰の発案なのか不明であるにもかかわらず、自転車好きの人の間ではしっかりと普及していることがパブリック・ドメイン的といえるし、さまざまな人の手で改良を加えられている──実際ぼくも練習する子どもと向かい合いながら自分なりに工夫を加えながら実践した──という意味でクリエイティブ・コモンズ的であるともいえる。毎度のオチですがそういう気がしています。